千葉地方裁判所 昭和58年(行ウ)14号 判決 1987年3月30日
千葉県船橋市小室町一六六番地
原告
武藤昭三
右訴訟代理人弁護士
高橋むつき
千葉県船橋市本町二丁目二七番二五号
被告
船橋税務署長
年森敦悟
右指定代理人
中西茂
右同
佐藤鉄雄
右同
郷間弘司
右同
一杉直
右同
庄子衛
右同
三上正生
右同
岩佐勝博
右同
西堀英夫
主文
一 原告の請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一申立て
一 原告
1 被告(市川税務署長)が、原告の昭和五三年分ないし昭和五五年分の各所得税について昭和五七年三月一〇日付けでした各更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分をいずれも取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
二 被告
主文同旨。
第二主張
一 原告の請求原因
1 原告は、昭和五三年分の所得税確定申告において、分離課税の長期譲渡所得金額を零として申告したところ、市川税務署長は、原告に対し、昭和五七年三月一〇日付けをもって、その所得金額を二六二二万九〇〇〇円とし、所得税の額を六三三万五五〇〇円とする更正処分及び過少申告加算税三一万六七〇〇円の賦課決定をした。
2 原告は、昭和五四年分の所得税確定申告において、分離課税の長期譲渡所得金額を零として申告したところ、市川税務署長は、前同日付けをもって、その所得金額を、二三七一万一〇〇〇円とし、所得税の額を五三九万一五〇〇円とする更正処分及び過少申告加算税二六万九五〇〇円の賦課決定をした。
3 原告は、昭和五五年分の所得税確定申告において、分離課税の長期譲渡所得金額を零として申告したところ、市川税務署長は、前同日付けをもって、その所得金額を四四四八万二〇〇〇円とし、所得税の額を九二三万二五〇〇円とする更正処分及び過少申告加算税四六万一六〇〇円の賦課決定をした。
4 原告は、前記1ないし3の市川税務署長の各処分(以下「本件各更正」及び「本件各賦課決定」という。)につき、昭和五七年五月七日、同署長に対して異議申立てをしたが、同署長は、同年八月二〇日付けをもってこれを棄却したので、原告は、同年九月二〇日、国税不服審判所長に審査の請求をしたところ、同所長は、昭和五八年七月二五日付けをもって、右審査請求を棄却する旨の裁決をなし、原告は、そのころ右裁決書謄本の送達を受けた。
5 しかしながら、市川税務署長がした本件各更正のうち、昭和五三年分の長期譲渡所得金額については、原告の長男である訴外武藤俊一(以下「俊一」という。)が原告に無断で勝手にした土地の譲渡を、原告が所得税法六四条二項の保証債務の特例の適用があるものと誤って申告したことに基づくものであって、原告の所得は皆無であったのであり、この過誤は明白かつ重大なものであるから、本件更正は違法である。また、昭和五四年分と同五五年分の各長期譲渡所得金額については、所得税法六四条二項の保証債務の特例の適用が認められるべきところ、市川税務署長はこれを認めないとの見解の下に更正したので、これもまた、違法である。
したがって、本件各更正に伴う本件各賦課決定も違法である。
6 被告は、昭和五八年七月一二日市川税務署長の権限を承継した。
7 そこで、原告は、被告に対し、本件各更正及び本件各賦課決定をいずれも取り消すことを求める。
二 請求原因に対する被告の答弁
1 1ないし4の各事実をいずれも認める。
2 5の主張を争う。
3 6の事実を認める。
三 被告の抗弁
1 本件各更正及び本件各賦課決定の経緯は、別表1ないし3記載のとおりである。
2 市川税務署長(以下「被告」という。)が、別表1ないし3記載の原告の課税所得金額及び納付すべき所得税額を算出した根拠は、次のとおりである。
(一) 昭和五三年分
(1) 総合課税分
課税総所得金額 零円
農業所得三万一三五〇円から所得控除額合計二三五万二五三〇円を控除した。
(2) 分離課税分
分離課税長期譲渡所得金額
二六二二万九〇〇〇円
原告が昭和五三年一〇月六日に、原告所有の千葉県八千代市米本一二二一番四の土地三五九〇平方メートルを訴外染谷不動産株式会社ほか二社に対して譲渡したことに係る収入金額三二五八万円から、取得費一六二万九〇〇〇円、譲渡費用一四〇万円及び長期譲渡所得の特別控除額一〇〇万円の合計四〇二万九〇〇〇円並びに(1)の所得控除額の不足額二三二万二一八〇円を控除して算出した(国税通則法「以下『通則法』という。」一一八条一項により一〇〇〇円未満切り捨て。以下同。)。
原告は、右土地の譲渡について、確定申告においては、俊一の保証債務の履行のためになしたものであるから、所得税法六四条二項の適用があるとして所得金額を零として申告した。原告は、本件訴訟において、「俊一が原告に無断で右土地の譲渡をし、その譲渡代金も俊一の借金返済のために費消してしまったのであるから、原告には右土地の譲渡につき、譲渡意思もなければ、譲渡所得も発生していない。原告のした確定申告は原告の過誤に基づくものである。」と主張しているが、原告は、本件各更正に対する異議申立てにおいても、原告が右土地を譲渡したことを前提とする主張をしており、また、原告は、右土地譲渡の効力等も争ってはいない。したがって、原告の過誤に基づく申告であるとの主張は失当である。また、原告が、確定申告に際して添付した俊一の借入金明細は、いずれもその借入先が架空のものであったから、被告が所得税法六四条二項を適用しないでなした更正は適法である。
仮に、俊一が原告に無断で右土地を売却したものであったとしても、原告は、売却直後にその事実を知ったのに、何らの手続を取らず、昭和五三年分の確定申告及びその異議申立てにおいては、右の譲渡を前提としているのであって、俊一の無権代理行為を追認したというべきであり、原告を譲渡人とする売買契約は有効に成立している。
(3) 納付すべき税額 六三三万五五〇〇円
租税特別措置法(昭和五四年法律第一五号による改正前のもの。以下「措置法」という。)三一条一項及び同法施行令二〇条二項の規定に基づき算出したもので、その算出方法は別表4記載のとおりである。
(二) 昭和五四年分
(1) 総合課税分
課税総所得金額 零円
農業所得二六万八五八〇円から所得控除額合計二三〇万二三六〇円を控除した。
(2) 分離課税分
分離課税長期譲渡所得金額
二三七一万一〇〇〇円
原告が昭和五四年一月一九日に、原告所有の千葉県船橋市小室町一一三二番、一一三三番及び一一三八番の土地合計六一七平方メートルを訴外伊藤チエに対して譲渡したことに係る収入金額二九一〇万円から、取得費一四五万五〇〇〇円、譲渡費用九〇万円及び長期譲渡所得の特別控除額一〇〇万円の合計三三五万五〇〇〇円並びに(1)の所得控除額の不足額二〇三万三七八〇円を控除して算出した。
原告は、右土地の譲渡について、俊一の保証債務の履行のために譲渡したものであるから、所得税法六四条二項の保証債務の特例の適用があると主張するが、次のとおり理由がない。すなわち、原告が俊一の債務の保証人として弁済したとする俊一の債務は別表5記載のとおりであるが、そのうち、<1>訴外山路博の債務については、原告自らの債務であり、<2>訴外小暮俊雄及び<3>訴外飯田峻の各債務については、いずれも、原告が俊一の債務を自ら引き受けたのであって、債務の保証をしたものではない。<4>訴外包末信義、<5>訴外泉對達男及び<6>訴外土岐佳朗の各債務については、原告が俊一の債務を保証したことはない。
また、俊一は、昭和五二年ころから無資力となって、保証債務の履行に伴う求償権の行使もできない状態であり、原告もこれを熟知していたから、仮に、原告が俊一の債務を連帯保証していたとしても、原告において、予め求償権の行使による回収への期待を全く持っていなかったのであるから、原告の保証債務の履行は、債務引受け若しくは俊一への利益供与又は贈与とみなすべきで、所得税法六四条二項の適用はないものというべきである。
(3) 納付すべき税額 五三九万一五〇〇円
措置法三一条一項及び同法施行令二〇条二項の規定に基づき算出したもので、その算出方法は別表6記載のとおりである。
(三) 昭和五五年分
(1) 総合課税分
課税総所得金額 零円
農業所得八万七七七〇円から所得控除額合計二三二万六〇六〇円を控除した。
(2) 分離課税分
イ 短期譲渡損失の金額 一九四万九〇〇〇円
原告が、昭和五五年二月二二日に千葉県印旛郡富里村十倉字山室入外七五一番の五ほか三筆の宅地七八八・四七平方メートル及びその地上の建物二棟を訴外有限会社深江ゴム工業に一四六二万〇四〇〇円で譲渡したことによるものであり、原告の申告額である。
ロ 分離課税長期譲渡所得金額
四四四八万二〇〇〇円
原告が、昭和五五年六月二一日に、原告所有の千葉県船橋市小室町一一一二番の土地一三四一平方メートルを訴外橋本仁一に対して譲渡したことに係る収入金額五二六五万円から、取得費二六三万二五〇〇円、譲渡費用三四万八〇五〇円、長期譲渡所得の特別控除額一〇〇万円及び前記譲渡損失の金額一九四万九〇〇〇円の合計五九二万九五五〇円並びに(1)の所得控除額の不足額二二三万八二九〇円を控除して算出した。
原告は、右土地の譲渡につき、俊一の保証債務の履行のためになしたものであるから、所得税法六四条二項の保証債務の特例の適用があると主張するけれども、この主張もまた理由がない。すなわち、原告が保証人として弁済したとする俊一の債務は別表7記載のとおりであるが、そのうち、<1>訴外徳永敬治の債務の弁済は、俊一に弁済の資力がなかったことによる債務の引受けに基づくものであって、保証契約に基づいてなされたものではなく、<2>訴外武藤秋男の債務の弁済は、原告が昭和五四年六月に締結した保証契約の履行としてのものであるが、原告は、その当時俊一には資力がなく、求償権の行使が不能であることを知りながら保証をしたのであるから、いずれも所得税法六四条二項の適用はない。また、<3>泉對達男の債務については、原告は、その連帯保証人となっていなかった。
(3) 納付すべき税額 九二三万二五〇〇円
措置法三一条一項及び同法施行令二〇条二項の規定に基づき算出したもので、その算出方法は別表8記載のとおりである。
3 本件各賦課決定は、原告の昭和五三年分ないし昭和五五年分の長期譲渡所得金額が前記2記載のとおりであるところ、原告がこれをいずれも零円と過少に申告したため、通則法六五条一項の規定に基づき、本件各更正による納付すべき税額(同法一一八条三項の規定により一〇〇〇円未満切り捨て)に一〇〇分の五の割合を乗じて(同法一一九条四項の規定により一〇〇円未満切り捨て)、別表9記載のとおり算出し、適法になした。
四 抗弁に対する原告の答弁
1 1の事実を認める。
2(一) 2(一)の事実のうち、被告が原告の納付すべき税額をその主張のとおり算出した事実は認めるが、長期譲渡所得金額算出の基礎とした事実は否認する。
原告の長男である俊一は、原告の権利証、実印、印鑑証明書を盗み出し、原告名義の委任状を勝手に作成して土地を譲渡した。原告は、この事実を代金授受も終了した後に、初めて知った。原告には土地を譲渡する意思がなく、譲渡による土地代金も受け取っていなかったのであるから、原告の確定申告は過誤によるものであり、これに基づいて長期譲渡所得金額を更正するのは違法である。
(二) 2(二)の事実のうち、被告が原告の納付すべき税額をその主張のとおり算出した事実及び原告が別表5記載のとおり弁済した事実は認めるが、長期譲渡所得金額算出の基礎とした事実は否認する。
原告は、被告主張の土地六一七平方メートルを伊藤チエに二九一〇万円で譲渡し、この譲渡代金をもって次のとおり俊一の保証債務を履行したのであるから、所得税法六四条二項の保証債務の特例の適用がある。
(1) 原告は、昭和五三年五月六日山路博に対して俊一の二〇〇〇万円の債務を連帯保証し、同年一二月二〇日、訴外株式会社千葉相互銀行から二〇〇〇万円を借り受けて、同日山路に二〇〇〇万円を弁済したが、右土地の譲渡代金をもって、昭和五四年二月一九日同銀行に対し二〇〇〇万円とこれに対する利息一四四万二二七三円を弁済した。
(2) 原告は、昭和五二年九月二〇日小暮俊雄に対して俊一の三〇〇万円の債務を、同日飯田峻に対して、俊一の四〇〇万円の債務をそれぞれ連帯保証した。ところで、小暮については千葉地方裁判所昭和五三年(ワ)第一六五号、飯田については同裁判所昭和五三年(ワ)第一六六号の各事件で和解が成立し、その和解調書においては、原告が債務引受金として小暮に三〇〇万円、飯田に四〇〇万円を支払うことが記載されているが、その実質は保証債務の負担であり、原告は、右土地の譲渡代金をもって小暮に対し三〇〇万円、飯田に対し二〇〇万円をそれぞれ弁済した。
(3) 原告は、昭和五四年六月三〇日ころから同年八月二日までの間に包末信義に対して、同年一〇月二三日ころから同年一二月二三日までの間に泉對達男に対して、同年三月二五日ころから同年四月一日までの間に土岐佳朗に対して、俊一の各債務(ただし、泉對に対しては一〇〇万円の債務)をそれぞれ連帯保証し、右土地の譲渡代金をもって包末に対し二〇〇万円、泉對に対し一〇〇万円、土岐に対し六〇万円をそれぞれ弁済した。
また、俊一は、昭和四三年一二月から船橋市二和町において中華料理店を経営し、昭和五二年五月ころまでは順調に収益を上げてきた。俊一は、昭和五二年五月ころから不動産業に従事し、中華料理店の経営から離れて、これを妻や実弟に任せ、その後右店舗の営業権を実弟に譲ったが、俊一は、船橋市小室の小室駅前で新たに中華料理店を経営することを計画し、その立地条件や従来の実績からみて、かなりの収益を見込むことができる状況にあった。ところが、昭和五五年一〇月ころから小室の土地に関して紛争が生じたため、俊一は、中華料理店を経営することが困難となり、昭和五六年には右土地が第三者に売却されて、中華料理店の経営が不可能となった。しかし、原告が俊一の各債務を保証したころ、俊一は、中華料理店を経営することを計画して、原告に対する求償債務の返済能力を回復することのできる状況にあったのであり、原告は、これを確信して保証をしたのであるから、所得税法六四条二項が適用されるべきである。
(三) 2(三)の事実のうち、被告が原告の納付すべき税額をその主張のとおり算出した事実及び原告が別表7記載のとおり弁済した事実は認めるが、長期譲渡所得金額算出の基礎とした事実は否認する。
原告は、被告主張の土地一三四一平方メートルを橋本仁一に五二六五万円で譲渡し、この譲渡代金をもって次のとおり俊一の保証債務を履行したのであるから、所得税法六四条二項の保証債務の特例の適用がある。
(1) 俊一は、徳永敬治から手形割引の方法で金員を借り受けていたが、原告は、昭和五一年七月ころから昭和五五年六月ころまでの間、割引を受ける手形に裏書をして、その都度俊一の債務を連帯保証し、右土地の譲渡代金をもって昭和五五年六月一一日徳永に対し二八〇〇万円を弁済した。
(2) 原告は、昭和五四年六月ころ武藤秋男に対して俊一の債務を連帯保証し、右土地の譲渡代金をもって武藤に二一〇〇万円を弁済した。
(3) 原告は昭和五五年二月五日ころ泉對達男に対して俊一の二〇〇万円の債務を連帯保証し、右土地の譲渡代金をもって泉對に対し二〇〇万円を弁済した。
また、原告が俊一の各債務を保証したころ、俊一に求償債務の返済能力を回復しうる可能性があったことは、前記二で述べたとおりである。
3 3の事実のうち、原告が被告主張の各長期譲渡所得金額をいずれも零円と申告した事実は認めるが、その余の主張は争う。
第三証拠
一 原告
1 甲第一ないし第一三号証、第一四号証の一ないし八、第一五ないし第二〇号証
2 証人山路博、同徳永敬治、同武藤トキ子、原告本人
3 乙第一号証の一ないし三、第二号証の一、二、第三、第四号証の各一ないし三、第五号証の成立はいずれも認める。その余の乙号各証の原本の存在と成立はいずれも認める。
二 被告
1 乙第一号証の一ないし三、第二号証の一、二、第三、第四号証の各一ないし三、第五号証、第六号証の一ないし三、第七号証の一ないし四、第八ないし第一一号証。
2 甲第三号証、第六、第七号証、第一五ないし第二〇号証の成立はいずれも認める。その余の甲号各証の成立はいずれも知らない。
理由
一 請求原因1ないし4及び6の各事実並びに抗弁1の事実は、いずれも当事者間に争いがない。
二 本件各更正及び本件各賦課決定が適法になされたか、順次検討する。
1 昭和五三年分について
(一) 総合課税分の算出については、当事者間に争いがない。
(二) 分離課税分算出の根拠とされた長期譲渡所得金額の認定の当否について検討するに、いずれも成立に争いのない乙第二号証の一、二、第五号証及び原告本人尋問の結果によれば、「昭和五三年一〇月六日に行われた原告所有の千葉県八千代市米本一二二一番の四の土地三五九〇平方メートルの売買契約は、原告の関知しない間に、俊一によって訴外染谷不動産株式会社ほか二名との間で締結され、俊一は、その譲渡代金のほぼ全額を訴外谷口芳徳への借入金の返済に充てた。原告は、この事実を昭和五三年三月一二日にした確定申告の直前に知ったけれども、俊一の責任を追求することも、右売買の無効を主張することもせず、原告の依頼した公認会計士の勧めもあって、俊一の債務の弁済に充てるため右の土地を代金三二五八万円で譲渡したとして、架空の債務弁済の領収書を入手し、これを添付して申告した。」との事実を認めることができるのであるが、右のような事実に照らせば、原告としては、俊一に対し、事前に右土地の売買契約を締結する権限を与えていなかったが、事後にこれを追認したというほかなく、仮に、追認する意思がなかったのであれば、その無効を主張して訴えを提起し、その結果により更正を請求するなどの是正方法を措ることが十分可能であったというべきである。
ところで、原告は、昭和五三年分の確定申告が原告の過誤に基づくものであり、この過誤が明白かつ重大なものであったから、本件更正が違法であると主張する。しかし、所得税法は、いわゆる申告納税制度を採用し、通則法一九条及び二三条は、申告に係る課税標準等について修正申告又は更正請求をすることができると規定している。これは、所得税の課税標準等の決定については、最もその間の事情に通じている納税義務者自身の申告に基づくものとし、その過誤の是正は、法律が特に定めた場合に限ることとするのが、租税債務を可及的速やかに確定させるべき国家財政上の要請に応じたものであり、納税義務者に対しても過当な不利益を強いるおそれがないと認めたからにほかならない。したがって、申告に係る課税標準等の過誤が客観的に明白かつ重大であって、右の修正申告等以外にその是正を許さないとするならば、納税義務者の利益を著しく害すると認められる特段の事情がある場合でなければ、申告に係る右のような過誤を主張することは許されないと解するのが相当である。そして、前記認定の事実に照らせば、原告において、法定の修正申告等によらずに、その過誤を主張すべき特段の事情がある場合に該当すると認めることはできない。
また、前記認定事実からすれば、前記の土地譲渡代金は、俊一の債務の弁済に充てられたが、原告は右債務とは何らの関わりがなかったことがうかがわれ、そうすると、前記土地譲渡は、原告の保証債務の履行のために行われたものということはできないから、被告が、所得税法六四条二項を適用しなかったのは正当である。
(三) 弁論の全趣旨によれば、前記土地代金の取得費が、一六二万九〇〇〇円、譲渡費用が一四〇万円、長期譲渡所得の特別控除額が一〇〇万円、総合課税の所得控除額の不足額が二三二万一一八〇円であることを認めることができるから、昭和五三年分の原告の長期譲渡所得金額は二六二二万九〇〇〇円、納付すべき税額は六三三万五五〇〇円となる。
(四) そうすると、本件更正及びこれに伴う本件賦課決定は、いずれも適法なものであったということができる。
2 昭和五四年分について
(一) 総合課税分の算出については、当事者間に争いがない。
(二) 分離課税分算出の根拠とされた長期譲渡所得金額の認定の当否について検討するに、原告が昭和五四年一月一九日に原告所有の千葉県船橋市小室町一一三二番、一一三三番及び一一三八番の各土地合計六一七平方メートルを伊藤チエに対し代金二九一〇万円で譲渡し、原告が別表5記載のとおり各債務を弁済した事実は、当事者間に争いがなく、原告は俊一の保証債務を履行したのであるから、所得税法六四条二項の適用があると主張する。そこで、以下、順次検討する。
(三) <1>山路博の債務について
(1) 原告は、俊一の山路に対する二〇〇〇万円の債務について、昭和五三年五月六日に山路と連帯保証契約を締結したと主張し、甲第一号証(金銭借用証書)にはその旨の記載があり、証人山路博も、右の趣旨を供述する。
しかし、前掲乙第五号証及び原告本人尋問の結果によれば、原告は、昭和五三年五月六日には、甲第一号証の連帯保証人欄には何ら記入をしておらず、右欄空白のまま山路がこれを保管し、原告において債務を弁済後、山路から返還された甲第一号証に、原告が自ら、その連帯保証人欄に署名・捺印をした事実を認めることができる。
右の事実からすると、甲第一号証の連帯保証人欄の記載や、前記山路の供述をそのま信用して、原告が昭和五三年五月六日に連帯保証をしたとの事実を認めることができず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。
(2) しかしながら、いずれも成立に争いのない甲第三号証、第六、第七号証、第一七号証、第二〇号証、証人山路博の証言によりいずれも成立を認める甲第一号証(前記連帯保証人欄部分を除く。)、第二号証、第四、第五号証、証人山路博の証言、原告本人尋問の結果によれば、次の事実を認めることができ、これを左右するに足る証拠はない。
山路は、昭和五三年二月ころ俊一と知り合い、同人から、同人が他から借受けている金員の弁済資金として、借財を申し込まれた。山路は、俊一の父である原告が資産家であることを聞き、また、俊一から、当時、訴外宅地開発公団所有の船橋市小室町三三二一番所在の土地が、二、三年うちに入手でき、そこで中華料理店をやるので、共同経営をしないか、借入金の返済は、その店の売上金からこれをすると持ち掛けられ、調査の結果、俊一の言を信用して、昭和五三年五月六日ころ、俊一に対し、二〇〇〇万円を貸し渡した。
俊一は、右借入金で、他からの借財を精算した。
山路は、前記船橋市小室町所在の土地の件が順調に行かなかった場合のことを慮って、物的保証として、原告所有の同市二和町一一〇番三五所在の宅地一七四・一四平方メートルと、右地上の建物(居宅・店舗)とを買戻特約付で山路の所有名義に移転することを要求し、原告はこれを承諾して、昭和五三年五月二九日ころ、原告と山路とは、前記二〇〇〇万円で山路が前記土地・建物を買戻特約付で買受けた旨の書面(甲第二号証)を作成した。
右契約による買戻し期限は、同年一一月二七日までであったところ、原告は、同年一二月二〇日に、千葉相互銀行から二〇〇〇万円を借り入れて山路に弁済した。
そして、昭和五四年二月一九日に、原告は前記各土地(小室町一一三二番等)の譲渡代金から、千葉相互銀行に対し、右借入金を弁済した。
右の事実によれば、原告が山路との間で締結した買戻特約付売買契約は、俊一の山路に対する債務を担保するためのものであり、原告は、俊一の物上保証人たる地位にあったと解するのが相当である。
被告は、山路に対しては、原告自身が債務者であったと主張するが、右に認定した本件の経緯において、原告の買戻特約付売買契約締結時に、俊一の債務を自ら免責的に引受けたとまで解することはできない。
そうすると、原告は、俊一の債務を保証するため不動産を担保に供し、その債務の弁済に充てるため自己の資産を譲渡したもので、担保に供した不動産と処分した資産とが一致しなくとも、所得税法六四条二項所定の「保証債務を履行するため資産の譲渡があった場合」に一応該当するというべきである。
(3) ところで、被告は、俊一が昭和五二年ころから無資力であったから、原告は求償権の行使ができないことを知りながら保証したもので、贈与等に類するから所得税法六四条二項の適用はないと主張する。
そこで、昭和五三年五月ころの俊一の資力状況を検討するに、前掲乙第五号証、いずれも成立に争いのない乙第一号証の一ないし三、第三号証の一ないし三、いずれも原本の存在及び成立に争いのない乙第六号証の一、二、第七号証の一ないし三、第九ないし第一一号証、証人山路博、同武藤トキ子の各証言、原告本人尋問の結果によれば、以下の事実を認めることができ、これに反する証拠はない。
俊一は、昭和四三年ころから中華そば店を経営していたが、昭和四六年ころから競輪、競馬に凝って借金を重ねるようになり、昭和五二年四月ころには、借金による揉め事等の事情から、店を実弟に譲って、自らは不動産屋の手伝いなどをしていた。
その後、同年九月ころ、俊一は行方不明となっており、俊一の債権者が原告に、債務の引受を迫ったことがあった。
俊一には自己資産は何もなく、父である原告の資産を専ら便りにして借金を重ねていた。
原告は、昭和五二年ころから、俊一の債務に保証をしていたが、同年三月及び七月ころには、総額四八七六万五〇〇〇円の保証債務を履行し、昭和五三年三月になした、昭和五二年分の所得税の確定申告に際しては、俊一及びそ家族を自らの扶養控除を受けるべき対象者として申告し、かつ、前記保証債務を履行するために、自己所有の山林を同年四月に譲渡したが、「俊一は無財産ゆえ、求償権を行使することは全く不可能であります。」として、所得税法六四条二項による減免措置がとられるべきものと主張し、分離課税の所得金額、税額を各零円として申告した。そして、右申告内容は更正されることなく、税額はなしとされた。
右認定の事実によれば、昭和五三年三月の時点においては、俊一は無資力で、原告は、その求償権の行使が不可能であったことを知っていたということができる。
そして、原告が俊一の山路に対する債務を保証した同年五月の時点をみるに、前記三月の後、俊一が定職に就いたとか、資力を回復したと認めるに足りる証拠は全くない。原告は、俊一は、前記船橋市小室の土地で、二、三年後には中華料理店を営むべく準備中であり、返済能力を回復できうる状況にあったと主張し、確かに前記(2)認定によれば、俊一は右中華料理店を営むつもりでおり、かつ同人は、その売上げの中から山路への借入金を返済していくつもりであったと認められ、また、原告本人尋問の結果によれば、原告も、その店の売上げから求償するつもりであったことがうかがえる。
しかしながら、前掲甲第二〇号証によれば、右中華料理店を営むべき土地が原告の所有として登記されたのは、昭和五五年六月一〇日であるから、昭和五三年五月の時点においては、右中華料理店の経営は未だ構想に過ぎず、何ら具体化したものではないから、原告のいう求償への期待も、結局は出世払としての域を出ないものである。そうすると、原告の保証した昭和五三年五月の時点でも、俊一が無資力で求償権の行使が不可能であった同年三月の時点と著しい変化はなく、五月の時点でも俊一は無資力で求償権の行使が不可能であり、原告はこれを知って、山路に対して前記物上保証をなしたものといわなければならない。
そうすると、原告の山路に対する債務の物上保証は、俊一への贈与等に類するものであって、所得税法六四条二項を適用することはできない。
(四) <2>小暮俊雄、<3>飯田峻の各債務について
(1) 前掲乙第三号証の一ないし三、第五号証、第六号証の一、二、第七号証の一ないし三、原本の存在と成立に争いのない乙第六号証の三、第七号証の四、原告本人尋問の結果によれば、次の事実が認められ、これに反する証拠はない。
小暮は、昭和五三年三月八日、当庁に原告に対する債務引受金請求事件(当庁昭和五三年(ワ)第一六五号)を提起し、その請求原因として、俊一が昭和五一年一一月二九日に小暮から借り受けた三〇〇万円の金員について、原告が昭和五二年九月二〇日俊一に代わってその債務を引き受けたと主張した。原告は、この訴訟の第一回口頭弁論期日において「原告の請求原因事実をすべて認める。」と陳述し、昭和五三年六月二九日の第三口頭弁論期日において、債務引受金として三〇〇万円の支払義務があることを認める和解をした。
飯田も、昭和五三年三月八日、当庁に原告に対する債務引受金請求事件(当庁昭和五三年(ワ)第一六六号)を提起し、その請求原因として、俊一が昭和五一年九月二九日と昭和五二年二月一八日に千葉興業銀行から借り受けた二〇〇万円と三〇〇万円の合計五〇〇万円の債務について、飯田がその連帯保証人となったところ、俊一が行方不明となって、原告が昭和五二年九月二〇日俊一の飯田に対して負担すべき現在及び将来の一切の債務について俊一に代わってその債務を引き受けたと主張した。原告は、この訴訟の第一回口頭弁論期日において「原告の請求原因事実をすべて認める。」と陳述し、「原告が債務引受をするに当たっては、その意思表示に要素の錯誤があった。」と抗弁をしたが、結局、昭和五四年一一月一三日の第一四回口頭弁論期日において、飯田に対し、債務引受金として四〇〇万円の支払義務があることを認める内容の和解が成立した。
(2) 原告は、小暮及び飯田との間で成立した和解において使われている債務引受の語句が、実質的には保証債務を意味するものであると主張するけれども、前記認定の事実によれば、小暮及び飯田は、いずれも、「原告が俊一に代わってその債務を引き受けた。」と主張していたのであり、しかも、原告が飯田らとの債務引受契約をしたのは、俊一の行方不明が原因となっているというのであるから、最早や俊一を債務者の地位におくことなく、原告のみに弁済の期待を置く内容であることが当然で、それゆえ、原告のなした債務引受は、いわゆる免責的債務引受と解すべきものであって、重畳的な債務引受契約でもなく、増してや原告が小暮及び飯田に対して俊一の債務を保証したものではないと解するのが相当である。
(五) <4>包末信義、<5>泉對達男、<6>土岐佳朗の各債務について原告が昭和五四年一月一九日に船橋市小室町一一三二番、一一三三番及び一一三八番の各土地を代金二九一〇万円で譲渡した事実は、当事者間に争いがなく、前掲乙第五号証、原告本人尋問の結果によりいずれも成立を認める甲第八ないし第一二号証、弁論の全趣旨により成立を認める甲第一三号証、原告本人尋問の結果によれば次の事実が認められる。包末は、昭和五四年六月三〇日俊一に対して二〇〇万円を、泉對は、同年一〇月二三日俊一に対して一〇〇万円を、土岐は、同年三月二五日俊一に対して六〇万円をそれぞれ貸し付けた。原告は、右の事情を知らなかったが、右の者らから請求を受けたので、妻や孫の名義で千葉相互銀行に預け入れていた定期預金を解約して、同年四月一日土岐に対して六〇万円を、同年八月二日包末に対して二〇〇万円を、同年一二月二三日泉對に対して一〇〇万円をそれぞれ弁済した。
以上の認定に反する証拠はない。
右認定の事実によれば、原告が右土地を譲渡した時期は、俊一が包末らから各金員を借り入れた時期よりも先であったのであるから、仮に、原告が包末らに対して俊一の債務を保証したことがあったとしても、原告がその保証債務を履行するために右土地を譲渡したものと認めるのは相当でない。
(六) 弁論の全趣旨によれば、前記小室町一一三二番、一一三三番及び一一三八番の各土地六一七平方メートルについての取得費が一四五万五〇〇〇円、譲渡費用が九〇万円、長期譲渡所得の特別控除額が一〇〇万円、総合課税の所得控除額の不足額が二〇三万三七八〇円であることを認めることができるから、昭和五四年分の原告の長期譲渡所得の金額は二三七一万一〇〇〇円、納付すべき税額は五三九万一五〇〇円となる。
(七) そうすると、本件更正及びこれに伴う本件賦課決定は、いずれも適法なものであったということができる。
3 昭和五五年分について
(一) 総合課税分の算出及び分離課税分のうち短期譲渡損失金額の認定については、いずれも当事者間に争いがない。
(二) 分離課税長期譲渡所得金額の認定の当否について検討する。
原告が昭和五五年六月二一日に原告所有の千葉県船橋市小室町一一一二番の土地一三四一平方メートルを橋本仁一に対し代金五二六五万円で譲渡し、原告が別表7記載のとおり各債務を弁済した事実は、当事者間に争いがなく、原告は、俊一の保証債務を履行したのであるから、所得税法六四条二項の適用があると主張する。そこで、以下順次検討する。
(三) <1>徳永敬治の債務について
(1) 前掲乙第五号証、いずれも成立に争いのない甲第一九号証、乙第四号証の一ないし三、原本の存在と成立に争いのない乙第八号証、証人徳永敬治の証言によりいずれも成立を認める甲第一四号証の一ないし八、証人徳永敬治の証言及び原告本人尋問の結果によれば、次の事実が認められる。
俊一は、昭和五一年七月ころから、他からの借金の返済のために、徳永敬治より金員を借り入れていたが、その借入れの際には手形割引の形式をとり、その都度、徳永の要求により、原告が約束手形に保証の趣旨で裏書をしていた。昭和五五年六月一一日には、それまでに継続して借り入れた金員を一括精算するために、徳永と俊一、原告の間で「債務弁済確認書」(乙第八号証)が作成され、原告は、同日徳永に対し二八〇〇万円を支払って、それまで俊一が徳永に対して負担していた債務を全額精算した。この債務弁済確認書では、「原告が俊一の債務を徳永に代位弁済する。担保若しくは借用証代用である約束手形合計一〇通を原告に返還する。」との内容となっていたが、原告は、昭和五五年分の確定申告について、昭和五六年八月五日に市川税務署の担当者から調査を受けた後、徳永の協力を得て、「原告が俊一の債務を連帯保証し、その履行として徳永に対し二八〇〇万円を支払った。」という内容の「金銭消費貸借契約及び債務弁済確認書」と題する書面(甲第一九号証)を作成し、同年九月七日この書面を同税務署の担当官に提示した。
以上の認定に反する証拠はない。
右に認定した事実によれば、原告は俊一が徳永から手形割引の方法で金員を借り受けるに際し、その徳永へ差入れる手形に、すべて保証の趣旨で裏書をしたのであるから、いわゆる隠れた手形保証をなしたもので、原告の弁済は、原告の手形保証債務の履行としてなされたとみるのが自然であって、債務弁済確認書(乙第八号証)に「代位弁済」との文言があるからといって、その時、債務引受けをなしたとするのは相当でない。
(2) 次に、原告が手形保証をなした時の求償への期待について検討する。
証人徳永敬治の証言によれば、徳永と俊一との間では、三か月の期間で、差入れた手形を書き替えていたというのであり、前掲乙第八号証の添付された約束手形目録によれば、原告が弁済した手形金は、いずれも昭和五四年三月一五日から昭和五五年六月五日までの間の満期日に係る手形一〇通によるものであるから、これらの事実によれば、原告が弁済した手形金について、原告が手形保証した日は、各手形のいずれも満期日の三か月前ころと考えられ、そうすると、昭和五三年一二月一五日ころから昭和五五年三月五日ころまでの間ということになる。
昭和五三年五月ころの俊一の資力状態については、2(三)(3)で述べたとおりである。
そして、前掲乙第二号証の一、二、第三、第四号証の各一ないし三、第五号証、第九ないし第一一号証、証人武藤トキ子の証言、原告本人尋問の結果によれば、俊一は、昭和五三年九月ころに愛人関係が原因で妻子と別居状態となり、徳永との取引を切っ掛けに大阪の暴力団と関係をもち、昭和五四年一〇月には覚醒剤を使用し、昭和五五年一二月からは継続的に覚醒剤を使用するようになったこと、原告は、昭和五三年三月以降も、昭和五四年三月、昭和五五年三月及び昭和五六年三月に、いずれも確定申告するに際しては、俊一及びその家族を自らの扶養控除を受けるべき対象者として申告し、各年分ごとに三〇〇〇万円ないし五〇〇〇万円の資産を譲渡したが、すべて俊一の借金を保証人として弁済したものであり、かつ、俊一は無資力で求償権の行使が不可能であるので、所得税法六四条二項の適用が受けられるものとして、分離課税の所得金額、税額を各零円として申告したこと、原告は、昭和五五年三月一〇日市川税務署に提出した理由書に、「(俊一は、)本年も不良の仲間と競馬、競輪、賭博にこり、遂には印鑑を偽造して私の土地を担保に入れようとして、相手方より詐欺罪で告訴される如き結果となり」などと記載したこと、徳永からの借入れも、競輪、競馬による借金の返済のためであること、以上の事実を認めることができ、これに反する証拠はない。
右認定の事実によれば、昭和五三年一二月一五日ころから昭和五五年三月五日ころまでの俊一の資力状態は、昭和五三年五月ころと著しい変化はなく、以前よりはむしろ非行度の進んだ状態であって、原告の求償権の行使もやはり不可能で、原告はこれを知りつつ手形保証をなしたといわざるをえない。
確かに、前に述べたように、俊一が中華料理店を営むべく計画していた船橋市小室町所在の土地は、昭和五五年六月一〇日に原告の所有名義となり、右計画は、同年三月ころには、より具体化していたものと推測することはできるが、先に認定した俊一の行状を考え併せると、求償権の行使が不可能な状態であったとの判断を動かすことはできない。
そうすると、原告の徳永に対する手形保証も、俊一への贈与等に類するものであって、所得税法六四条二項を適用することができない。
(四) <2>武藤秋男の債務について
俊一が昭和五四年六月ころ武藤から金員を借り入れた際に、原告がその保証人となった事実は、当事者間に争いがないが、前記三(2)で判断したとおり、原告が保証人となった昭和五四年六月当時、俊一は無資力で、原告は、俊一に対して求償権を行使することができない状況にあることを知っていたから、前記三(2)に述べたのと同様の理由で、原告の武藤に対する弁済についても、所得税法六四条二項を適用することができない。
(五) <3>泉對達男の債務について
前掲乙第五号証によれば、原告は昭和五五年六月一一日泉對に対して二〇〇万円を支払った事実を認めることができる。
原告は、この債務の弁済を俊一の保証債務の履行であると主張し、原告本人はこれに添う供述をするが、前掲乙第五号証によれば、原告が弁済した時に泉對から返還を受けた借用証には、連帯保証人欄の原告名の記載はなく、原告がこれを後から記入した事実が認められ、このような事情に照らせば、原告は前以って保証はしていなかったとみるのが相当で、原告本人の供述は信用できず、他に原告の保証を認めるに足りる証拠はない。
したがって、原告の泉對に対する二〇〇万円の弁済についても、所得税法六四条二項を適用することができない。
(六) 弁論の全趣旨によれば、小室町一一一二番の土地一三四一平方メートルの取得費が二六三万二五〇〇円、譲渡費用が三四万八〇五〇円、長期譲渡所得の特別控除額が一〇〇万円、短期譲渡の譲渡損失の額が一九四万九〇〇〇円、総合課税の所得控除額の不足額が二二三万八二九〇円であることを認めることができるから、昭和五五年分の原告の長期譲渡所得金額は四四四八万二〇〇〇円、納付すべき税額は九二三万二五〇〇円となる。
(七) そうすると、本件更正及びこれに伴う本件賦課決定は、いずれも適法なものであったということができる。
三 以上のとおりであって、本件各更正及び本件各賦課決定はいずれも適法になされたものであるから、被告に対してその取消しを求める原告の請求はいずれも失当であり、これを棄却すべきである。
よって、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 加藤一隆 裁判官 池本壽美子 裁判官 小野洋一)
(別表1)
53年分課税の経緯
<省略>
(別表2)
54年分課税の経緯
<省略>
(別表3)
55年分課税の経緯
<省略>
(別表4)
<省略>
(別表5)
<省略>
(別表6)
<省略>
(別表7)
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(別表8)
<省略>
(別表9)
<省略>